
AV出演被害防止・救済法(AV新法)の成立によりAV村にも法規制が導入され、ようやく「クリーン&ホワイト」なAV業界が成立したかと思われた2023年。しかしながら、AV削除をめぐり大きな議論が巻き起こり、ついには「もの言う女優たち」が立ち上がって法廷闘争に発展する事態となったのである。一体2023年に何が起きていたのか、再精査していきたい。
澁谷果歩のプラネットプラス無修正AV流出訴訟とV削除闘争

14年アリスJAPANデビューの澁谷果歩は元東スポ記者という異色の経歴をもつAV女優である。当初はクルーズグループ所属であったが、18年1月にマインズに移籍、18年5月にAV引退を発表した。

澁谷のAVデビューの経緯は、現代の観点から言うと「騙し」の要素もある。澁谷の著書『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』(2020年)には、「アダルトグッズモニター」として応募したにもかかわらず、(そもそもそんなモニターの仕事があったのかも不明…)いきなりAVの話になったことが記されている。
断りきれず、エロがないという「AVのエキストラ」の登録をしたところ、当日のうちに宣材写真を撮影し、その後有名AVメーカーの面接めぐりとなって、気づけば「エスワンかアリスJAPANの二択」と言う状況になっていた。
女社長(ジーシャンワファこず恵?)からは「どっちもなしというのだけはやめてね?」と言われ、AV新法もなければAV人権倫理機構もない当時の風潮では脅しとしか思えず、「怖かった」と澁谷は語っている。
ちなみに澁谷は「デビュー前に着エログラビアを仕掛ける」というエスワンを希望したが、女社長が酔っ払った状態で深夜にアリスJAPANに断りの電話を入れたところ、アリスJAPANサイドが「失礼だ」と怒り、アリスJAPAN専属になったのだという。専属先はそんな適当な決め方なのだ。
澁谷のマインズ移籍の理由としてマネージャーへの不満等も挙げられていたが、出発点でのモヤモヤをリセットしたいという気持ちもあったのではないかと私は推測している。
その澁谷はAVメーカー・プラネットプラス『澁谷果歩の爆乳劇』『はだかの家政婦 全裸家政婦紹介所』(いずれも2016年撮影、2017年発売)に出演していたが、これらの編集前素材(無修正)が2022年1月ごろ流出したのである。
これに対し澁谷は2023年2月16日、制作会社などに対して740万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。


澁谷は2023年4月18日にも、国際記者会見でこの無修正訴訟について語っている。
現役女優が業界から干されるのを恐れたり、引退後の元女優が身バレを恐れて泣き寝入りしがちな無修正動画の流出について、「私は引退前から絶対に訴えるぞと決めていた。誰かが動かないといけない」と覚悟を決めていた

これまで南波王監督やSODによる無修正流出が度々話題となってきたが、声を上げる女優はこれまで現れてこなかった。こうしてAV女優・澁谷が制作会社相手に提訴したことの意義は大きい。裁判の行方に引き続き注目していきたいところである。
さらに澁谷は23年9月ごろからAV人権倫理機構を介してV削除を申請していた。800件以上のAV作品リストを埋めるだけでも一苦労である。
引退して5年経ったので削除申請しようかと思ったら、いまだに総集編とかで新作が出てて800件以上あった‥ こりゃリスト作るだけで大変そう。
Making a list for deletion request of my JAV, and wow they still use my old footages to make “new” works? It’s been 5 years since retirement… and… pic.twitter.com/K0IbHyQwgi— Shibuya Kaho (@Shibukaho) September 5, 2023
この申請に対し、2023年12月にAV人権倫理機構より以下の回答が来たという。
- オムニバスは消さず、検索にヒットしないようにする措置をとる
- あるメーカーの5作品は1年後の2024年12月に消す
- 「『二度とAVないしアダルトコンテンツに出演しない』ことを条件に消す」なる同意書を20本以上出したメーカー(WILLか?)と結ぶ
5年以上前に発売された作品販売停止申請の結果が「AV人権倫理機構」様より届いたので、参考までにお伝えします!
①複数の女優が出演しているオムニバス等は私の女優名のみ削除し、検索してもヒットしにくいように対応する
→こういった作品を消してもらうのは大変申し訳ない気持ちがあったので、有難いです。
②5作品はメーカーが販売の継続を希望しており現時点では難しいが、2024年12月までに販売を終了する
→まだ売れる見込みがあるのか、もしくは元が取れてないだけかもしれませんが‥ 未だ求めてもらえることを純粋に嬉しく受け止めたいです。
③20本以上撮ったメーカーが同意書を結びたいと言っている
→どういう内容を求められるのか、週明けに直接ご連絡し確認します。
ちなみに販売停止=世から消える訳でないことは当然理解しており、私も決して過去を消そうとは思っておりません。(隠さなくても大丈夫だと証明したくて、名前を変えずに活動を続けております)
自宅のお風呂場で潮吹きを何度も練習したり、変な擬音語だらけの隠語帳を付けたり、クーパー靭帯が再生するというバストサロンに縋る思いで通ったり、日々真面目に取り組んでいました。
そんな自分も他者と肌を触れ合わせなくなり5年目。また現在は仕事の内容も環境も違うため、一つの区切りを付けられればと思います。
「お世話になってました」と言われますが、私こそ大変お世話になりました。
隙間産業なルックスの自分でも選んでもらえたこと、ずっと忘れません。— Shibuya Kaho (@Shibukaho) December 2, 2023
③同意書に関しての追加情報です。
「二度とAVないしアダルトコンテンツに出演しない」ことを条件に消す、というものでした。
過去に作品削除してもAV復帰したり、アダルトチャットやサイトで個人として稼ぐ方は結構いらっしゃるのですが、やはり業界的には良く思わないと‥…「今もアダルトやってるのに過去作を消すなんて狡い」と憤るメーカーの心理も、過去作を消して「私のヌードを今も見るならここだけ♪」と移行する個人のマーケティング戦略も分かります。
1社とはいえ"作品を消すAV女優のセカンドキャリアは他業種しか認めない"というルールが生まれたのは興味深いです。 (この約束を破った場合の対応については回答待ち)
私自身としては、現在関わっている『悶えてよ、アダムくん』アニメ声優業に大人向けver.もあるのをOKとしてもらうため「実写に限り」等と入れていただければ安心です。主題歌を歌唱しており、地上波ver.もあるので宜しくお願いします!
pic.twitter.com/zsMpDsV2lK— Shibuya Kaho (@Shibukaho) December 6, 2023
その「同意書」では「強要ではない」の旨再確認させられるなど、V削除とは関係のない同意が要求されている。
AV人権倫理機構の「無条件で5年経ったらVを消す」約束の自主規制も、結局守られず、渋谷のオムニバスは消さないし、1年待った!などと時間稼ぎをしてみたり、モデルの職業の自由を制限してみたりと、2023年になっても相変わらず手前勝手な村なことが改めて浮き彫りとなったのであった。
さて、2023年、こうしたAV削除において最前衛で闘争したのが大島薫である。
大島薫のV削除闘争–AV出演被害防止・救済法に基づく初のV削除訴訟

元KMP専属・大島薫。シーメールとは異なる、純然たる「男の娘」として史上初の専属となった大島は2016年に引退し、5年経過を経て5年ルール適応者となっていた。
その大島が22年末、AV業界に対し怒りのツイートを行ったのである。
正直AV業界に腹が立っている。AV業界はいま発売から5年経った作品についてはAV販売停止申請書というものを人権倫理機構に停止すれば、販売サイト等から削除してもらえるという流れになっているというのが世間での定説で、これをもって「適正AV業界はクリーン」と主張する人もいる。しかし、→— 大島薫 (@OshimaKaoru) December 26, 2022
ではなぜ大島は怒ったのか。大島のツイートはブログにまとめられているので、その告発を読み解いていきたい。
大島は2020年にAV人権倫理機構の「クリーン&ホワイト」な発売5年後AV削除するという「5年ルール」を信じてV削除申請を行った。
そもそも大島はAV業界に対する不信感があった。当初ギャラは事務所との折半との約束だったが、引退後、事務所が7割持っていったことが明らかとなる。KMPの専属のギャラは大島は30万円しかもらっていなかったという。これでは都内で生活できない。
大島は引退後文筆業に邁進するが、「大島薫」という単語が18禁認定されることでさまざまな弊害を受けたという。
大島はこうして脱18禁を熱望していた。2018年に「5年ルール」が成立したことをニュースで知った大島は、2020年にAV販売停止申請書をAV人権倫理機構に提出したのである。しかしながら、AV人権倫理機構による返答は以下の通りであった。
- オムニバスは削除しない。「大島薫」の名義が検索にヒットしない措置をとる。
- 3本のVについてはメーカーの意向で2025年12月まで削除しない。
- 2本のVについてはメーカーの意向で削除未定である。
AVの削除を先延ばしにしたメーカーは以下の通りである。
・グローリークエスト
・ホットエンターテイメント
・HANZ
・僕たち男の娘
中山美里や荒井禎雄などのAV業界人や、御用女優らが吹聴していた「適正AV業界は5年ルールで全てAV削除するからクリーン&ホワイト」なる説は、先の澁谷果歩のケースでもみた通り、やっぱり嘘だったのだ。
モヤモヤを募らせていた大島の神経を逆撫でしたのがsiente(2022年11月7日登記)立ち上げでAV業界ポジキャンをおこなっていた中山美里である。特に大きな契機となったのは、以下のツイートだ。
AV人権倫理機構も声明を発表しましたね。
コロナにかかっていて、気づくの遅くなりました🙇♀️ https://t.co/V5v6uEAios— 中山美里@siente中の人 (@misatonakayama) December 27, 2022
お手盛りのAV人権倫理機構とsienteが無責任に「適正AVはクリーン」などとポジキャンを連発し、「AVは5年ルールで確実に消せます」なるデタラメを吹聴することを、当事者である大島は看過できなかったのだ。
中山は、V消しを拒絶された大島に対し、「業界じゃなく社会に訴えれば良いのにね♪(ツイ消し済み)」などと驚くべき主張(嫌味か?)をしたという。これに対し大島は反撃していく。
中山美里の表立った発言に抗議する! 元AV女優である僕のAV不削除問題について全く寄り添わず、「業界じゃなく社会に訴えれば良いのにね♪(ツイ消し済み)」などと宣い、このようなDMで被害を封殺しようとする人物がAV女優の団体の代表としてツイートを繰り返すことに強く抗議する! https://t.co/mtxAGqHhsy pic.twitter.com/qVbdJrRNCf— 大島薫 (@OshimaKaoru) December 31, 2022
大島は、中山に警戒せよ、としてブログでこう語っていた。
あなたたち女優が、もし僕と同じ目に遭ったとき、この人はあなたたちの声を封殺することのほうを選ぶような人だということです。そんな人があなたたち女優の団体の代表でいいのか、僕は甚だ疑問です。
業界の代弁者として未払い問題でもかさいあみやひなたなつなどの女優の告発を封殺してきた中山は許せない!
ちなみに、2023年1月3日のブログで大島は月島さくらのDMを公開し、本来sienteは月島が代表になるところを本名・住所バレの懸念から中山にお願いしたことが明らかとなった。炎上を重ね、AV被害女性に悪罵を繰り返す月島に女性支援団体のトップなど務まるはずがない。
2023年1月20日のブログで大島は、「伊藤和子弁護士よりAV販売停止申請書がAV人権倫理機構にも、AVメーカーにも適正に処理されていない件について『AV新法の差し止め請求ができるのでは?』というご指摘を受け」たと語り、AV新法の利用を考慮し出す。
2023年2月3日のブログで大島はAV新法による差し止め請求メールを各メーカーに送信したことを報告した。
AV新法による過去作、オムニバス含む、総集編作品への差し止め請求をゲイビデオ含め、僕の全てのアダルト作品に対して行う件ですが、2023年2月3日を持ちまして全社メールを送信し終えたので、ご報告いたします
2023年2月18日のブログで大島はAV新法による差し止め請求の途中経過を報告した。
それでは僕が現在行っている「AV新法による差し止め請求の過去のAV全削除を求める社会実験」の途中経過をご報告いたします。ツリー続きます。
【AV差し止め請求先メーカー】
・削除対応
KOカンパニー(ゲイビデオ)
Myパラダイス(衛星放送)
SID(着エロ)
ぱるぷんて(同人AV)
HMJMハマジム(適正AV)
KMP(適正AV)
レイディックス(適正AV)
以上、7件
・拒絶
Men’sRushTV(ゲイビデオ)
ホットエンターテイメント(適正AV)
以上、2件
・未対応(返信無し)
acceed(ゲイビデオ)
TgirlJapan(無修正海外サイト)
以上、2件
…と、まあ、大勝利というわけでもない結果だが、約3年前にAV人権倫理機構に提出したAV販売停止申請書では消せなかったオムニバス作品や、総集編、また適正AVの枠組み外のため対応不可とされた、「制作元ゲイビデオ会社・販元適正AVの特殊AV」まで大部分が削除されることになった。
このうちホットエンターテインメントは、「女優とは直接やりとりしません。人権倫を通してください」として拒絶したという。
大島は2020年9月にも、AV人権倫理機構に提出したAV販売停止申請書で同社に削除申請をしていたが、ホットエンターテインメントは「削除時期未定」と回答していた。結局対応する気がないのである。
また大島は今回やっと削除に応じたレイディックスが「上から目線の」ツイートをしたことにも不満であった。
レイディックス社長昨日僕が送ったリプツイ消しして逃げんじゃねぇ。会社として声明文か謝罪文公式で出すまで続けるぞ。「今後は2018年以前、以後の契約であってもAV販売停止申請書が提出されたら全てのAV女優の方のAV削除に応じます」って宣言しろ。このリプの言葉の通りな。こそこそDM送ってくんな。 pic.twitter.com/ixckcekMhQ— 大島薫 (@OshimaKaoru) February 12, 2023
ここまで読んできて、さまざまなメーカーが交錯し、結局どのメーカーがどう対応したのかが分かりにくいのではないだろうか。決定版として2023年3月7日のブログで大島は以下のように対応を大別している。
適正AVメーカー内で僕のAV販売停止申請書に応じなかったメーカーをここに列記しておこう。
・KMP
・HANZ
・グローリークエスト
・ハマジム
・レアルワークス
・レイディックス
逆に適正AVメーカー内で、AV販売停止申請書にすぐに応じたメーカーはこちらだ。
・ダスッ!
・プレステージ
・ピーターズ
・ROCKET(SOFT ON DEMAND)
・U&K
・GARCON(SOFT ON DEMAND)
・ムーディーズ(WILL)
これらのメーカーは最終的に削除に応じたわけだが、頑強に削除に応じなかったのが自称適正・ホットエンターテインメントである。大島は伊藤和子弁護士と共闘してついに法廷闘争へと進んでいく。

記事によると、大島は2023年11月9日、ホットエンターテインメントに対し、1320万円の損害賠償のほかAV新法に基づき「関連する動画などの記録の廃棄」も求めて訴訟を起こした。伊藤弁護士によるとAV新法に基づく民事訴訟は初のケースだという。
2024年1月12日のブログで大島は裁判で読み上げた「意見陳述」を公開した。その一部を転載しておきたい。
せめて、この裁判の結果は、私のようにAVを消してもらえなかったという元AV女優の方々にとって明るい光になるようなものであることを願います。AV業界を表す表現にこんな言葉があります。「AV女優1万人、男優70人」それだけの人間の人権が蔑ろにされている業界があり、ないがしろどころか彼ら・彼女らに嘘をついている疑惑までいま湧き上がってきました。
嘘に嘘を重ね、「5年経ったらVを削除する」という最低限の自主規制の約束も全然守らない。さらにはAV出演被害防止・救済法も無視する。そういう連中が「適正」と自称して得意がっているという悲しい現実である。
さらにはsiente中山・月島といった女AV業界人による言論封殺部隊が暗躍する始末… AV村はいつまで経ってもAV村なんだな、と暗澹たる気持ちになるのであった。
風営法違反によるSOD摘発

2023年3月14日、警視庁はSOD社長・井口翔及びSOD LAND店長・樋口剛を風営法違反の疑いで逮捕した。SOD運営の新宿区歌舞伎町にあるSOD LANDなる店舗にて風俗営業の許可なくAV女優からなる女性店員に客への接待をさせていた疑いがあるという。

SODと同社社長に罰金計200万円の略式命令が出されていたが、しぶとくも8月18日には営業を再開したという。紗倉まなに「風俗営業許可取得しました」なる扇子を持たせ、アピールを忘れないのであった。

SODは店舗商売の基本となる許可もまともに取らず、全てが杜撰というほかない。こうした自称企業に重大な人権侵害の懸念のあるAV撮影販売をする権利があるのだろうか?私はSODの廃業を強く求めている。
元クローネ所属・横宮七海の自殺

衝撃的知らせであった。元クローネ所属・横宮七海が自殺したのである。なくなったのは2023年12月10日であった。

かさいあみも横宮を悼んでいた。中村淳彦も言っていたが、AV業界は若い人がよく死ぬ業界なのだ。
もはや彼女の苦しみを知る術はないのだが、今はただ冥福を祈るのみである。
終わりに
2023年はAV削除に関連して、澁谷果歩と大島薫と言う「もの言う女優」がAV村を相手に断固権利を主張した年として記憶されることだろう。AV業は映像が残る、と言う意味で他の性風俗業とは一線を画する。
もちろん違法動画を根絶するのは極めて困難だが、せめてFANZAぐらいからは女優が求めればすぐ削除できるようにならないのか。また、無修正動画の厳格な取り扱いも極めて重要だ。
業界のポジティブキャンペーンやAV新法の骨抜き活動に走る前に、業界でやることをやってほしい。これがAV出演被害防止・救済法の趣旨でもあるのだから。
コメント