
2011年10月の小向美奈子のAVデビューの余韻漂う2012年において、AV業界はかつてない活況に見舞われていた。AV女優がアイドルとして活躍し、ツイッターが普及。ムーディーズ・DMM・マークスグループなどによるAV女優ニコ生も普及した。さらにはツイキャスの普及によって女優が自宅から配信するなどの、前代未聞の情報環境となり、従来AV村業界人が独占していたAV村の情報開示が進んでいったのだ。しかしこれはのちにAV村の可視化装置としてとめどなくAV被害に関する情報が世間に溢れ出していく契機ともなっていった。2012年のAV業界を振り返る。
2011年末まで
2012年のAV業界を語るにあたり、2011年末のAV業界について振り返っておきたい。3.11の激震の影響を色濃く残す中、AV業界は渡世のために突き進んでいく。
9月3日、AV女優・林由美香の死を描いた平野勝之監督作『監督失格』が公開され、一般層からも注目を集めた。9月6日には薄消しAV事件でhmp会長・芳賀吉孝及びビデ倫元審査部統括部長・ 小野克巳被告に有罪判決が下された。レンタル(老舗)の壊滅を象徴する判決といえる。
薬物による2度目の逮捕を経て2011年10月14日、小向美奈子がAVデビュー。このデビュー作・アリスJAPAN『AV女優 小向美奈子』の売上は20万本と言われ、AV史において歴代1位の売り上げ記録を維持している。

11月18日には元AV女優・峰なゆか『アラサーちゃん』が発売された。のちにドラマ化もされる本作を足がかりに峰は人気漫画家としての道を歩き出していく。AV女優出身者で極めて稀な「カタギ」としての成功例と言えるだろう。
2011年はAV女優ニコ生が爆発的に普及した年でもある。ニコ生自体はそれ以前から開始されており、片桐えりりかの様な成功例も既にあったが、ネット回線環境の発展・スマートフォンの普及によって、一挙にキャズムを超えたといえよう。2011年10月には元AV女優・古都ひかることYoutuber・コトリッチがニコ生を開始し人気を集めていく。リアルタイムで動画を生配信できるニコ生のメディア性に注目が集まっていったのである。
ここに目をつけたのがSODである。SODはAV女優・牧瀬みさのデビュー作撮影を12月21日に行い、その様子を生配信すると予告。東浩紀らも反応するなど大きな話題を集めた。放送は中止にはならず当日番組は開始され、前戯を始めたあたりでBANされたが、恐るべき集客力を見せつけた。これに負けじと12月24日にはmoodyz がニコ生配信を行い、生で潮吹きを披露して対抗、今では考えられないような、なんでもありのネット状況となっていたのである。
2012年のAV業界
1. 横山美雪は「幸せになれ」たのか?

2008年にkawaiiデビューした横山美雪という女優がいる。2012年1月3日、横山美雪がブログに投稿した記事が波紋を読んだ。少々長いが、全文引用する。
改めまして自己紹介
会って話すまで
クールなイメージだった
オトナな女性
強め
性格悪そう
www
ほんとよく言われるww
ブログのコメントにあったけどほんとわたしフツーのひと。
だよ。
てか強めってw
性格はなんてゆーかサバサバしてて最初は怖いイメージだったとか言われたりw
意思表示はちゃんとするタイプ。
あ、それをわがままって言うのかw
なぜこう思うのか、
言わないとわかってもらえないから言う。
理解してもらえないとハナから諦めるより意思表示するほうがずっといい。
あとから文句言いたくないし。
すれ違いも防げるかもしれないし。
ねっ。
だから言う。
ちなみに意外と平和主義。
争うのとか面倒くさい。ていうかそういう意識になったことほとんどない。自分は自分。争うくらいなら寝たい。目立ちたいひとがいたらドーゾと譲るタイプ。完全にテレビ向いてないww
仕事終わるととりあえずみんなでご飯したい。で、帰って寝る。それから遊びに出掛けたりするアクティブさ。
しかしそれは10代、20歳で終了。
それ以降は眠くて仕方ない。なんせロングスリーパー。
口カタイ。
自分で言っちゃったw
でもカタイ。
てゆーかこれ秘密って言われたら大概忘れちゃって、こないだのことなんだけど、とか話されたら思い出せなくて話にならないw
友だちと喧嘩したことない。
イラついたこともない。
尊敬してるから(^_^)☆
そーゆう友だちがいるって幸せ( ´ ▽ ` )ノ
家庭円満で愛もいっぱいもらって育ったけど自立したいと小4くらいから思い始める。
中学。勉強勉強うるさくなる親。
すると勉強が面倒になる。
でも言われるの面倒だから好成績をキープ。
高校行くとさらに大学大学とうるさくなる親。
自由について考え始める。
自立したい気持ちは高校3年でMAXに。
と同時に強制されるといきなりやる気をなくすことにも気づく。
男女交際が厳しい学校と家庭で、
サボって彼氏と遊ぶスリルを楽しいと思い始める。
肌がいまより白かったから、具合悪いっていうと信じてもらえたあの頃。
保健室行って前日の彼氏との深夜までに及んだ電話が理由の寝不足を解決ww
これに味をしめるw
しかし欠課が多すぎて保健室ほぼ出禁になるw
しかし勉強が面倒w
けど成績下がるのもまずいからとりあえず出席。
しかし数字見ると眠くなって授業中後ろで熟睡。
私立だから数字はいいだろうと安心しきっているとテストは大変なことにw
そうやって高校終わりました。
なんかこれだけ読むとめっちゃ残念なひとw
でもそれなりに楽しんだの!
先生に追いかけられたりw
勉強面倒ていうかしたくないからサボったって言ったら本気で心配してきてくれたりとか、
オトナって嘘つきだって
矛盾してるって
出世欲まるだしにして
周りのこと無視するんだって
そう思ってた時期もあったけど
この仕事がきっかけでいいひとたちにめぐりあえて、
可愛がってもらえて、
教えてもらえて
やっぱり温かい場所が好きなんだって身に染みて、
自分も温かい場所にいれるような環境にしなきゃと思って
そうやって仕事してきた。
この仕事してるからかわいそうとか簡単に誰でも股開くんだろとか結婚できなそうとか
幸せになれないとかどこの誰か知らないひとに言われたことあるけど
そんなの仕事のせいじゃない。惨めな思いしてこの仕事してるんじゃない。
恥ずかしいとか思ってない。
結婚だってできると思うし、子どもだって幸せにできるさ。だってみんなと同じ人間でしょ?
職業違うだけで同じ人間でしょ?そこに優劣はないはず。
間違ってるとか正解だとかひとはわたしの意見に対して言うけどそんなのどーだっていい。
わたしは賛成されたくて言ってるわけじゃないし、味方がほしいわけじゃない。
もちろんできれば反対もされたくないけどさw
わたしの中で大切なのは、わたしはこう思ってるよって”発信”すること。
横山美雪はこういう人間ですよって発信したいんだ。
こらは言わない方がいいとか言われたりするけどわたしは人間だしさ!
誹謗中傷は嫌い。だからわたしもしない。
でも”意見”くらい言ったっていーんじゃない?
最近の、それだけかい?ってゆータイトルの記事だって、あれはイライラとか怒りじゃないよ。
意見。
嫌がらせするのは寂しい人間だって思う。
だからもっといろんなモノ見に外に出たら?ってゆー意見。
あんなオトコみたいな言葉で書いても、
実際は乙女です。
って言ったら何人吹いてくれるかしら。
と思ってニヤニヤしながらこれ書きました。
長々とスイマセン。
もう寝ます。
このポストは、AV女優が自らをポジティブに語るものとして、意外の感があった。猥褻の違法性の中で、人目を忍んで生きていくAV女優像は横山にはない。それどころか、「結婚して、子供も儲けて、幸せになれるんだ」と堂々と主張したのである。
気の強そうな横山のルックスも相まってこの記事にはなんと500コメント以上もついた。一部は信者の擁護もあったが、大部分は批判的なコメントで横山・AV女優を否定するものであった。AVに出たら、幸せになれるわけない。そうした意見が大半だったのである。
17年に「横山美雪」としての活動を終了させた横山は表舞台から姿を消した。風の噂ではインスタで元気そうな姿を見せているという。
横山はAV界の武闘派・松本和彦とつるんでニコ生をしていたり、のちに住吉会系暴力団員となるファニット・佐久間孝文との関係性もあるなどアウトローに取り巻かれていた。今もそうした人脈とは切れていなそうだが、果たしてカタギの「幸せ」は得られたのだろうか。
2. AV30
DMMの企画で、AVライター・安田理央が指揮したAV30周年にちなんだイベント「AV30」では、歴代全AV女優についてのファン投票が行われた。当時はまだV削除はほとんどなくAV女優のオールタイムベストと考えることができる。投票期間は2012年1月5日-2月29日である。

TOP10を書き出すと、
- つぼみ
- 麻美ゆま
- 吉沢明歩
- 川島和津実
- 成瀬心美
- 古都ひかる
- 小倉ゆず
- さとう遥希
- 絵色千佳
- Rio
であった。投票という性質上、2012年当時の現役女優が強いため除外すると、太字の4位川島、6位古都の人気が突出していることがわかる。しかしながら、こうした投票も今後は不可能だろう。古都は16年8月、Rioは19年9月、吉沢明歩は24-25年にかけてV削除を行ったからだ。
3. AV業界情勢:強豪4大メーカー

2012年当時のAV業界の業界情勢はどうだったのか。私が昔運営していたブログ「AVメモ」の調査では、2010、2011年の段階でCA(旧北都、現WILL)の売上高は約150億円に対し、メーカーであるSODクリエイトの売上高は50億円程度と大差がついていることがわかる。(卸のSODは150億円)ツタヤ系のトップマーシャル、プレステージで4強となり、JHV(アリスJAPAN)が追撃していた。この体制はマキシング・FALENOの登場で様変わりしていくものの、WILLとSODの売り上げはあまり変わらなかいと考えられる。

なお、DVDを小売店に販売する卸まで考えると、2011年、卸のSODの売上高は150億円であるのに対し、CAの卸のTISの売上高は300億円ほどであった。さらに動画配信を含むDMMは370億円の売り上げを誇っていた。DMMは2018年にアダルト事業をFANZAブランドとしデジタルコマースへと分社化したが、爆発的な成長は続き、のちにアダルト事業だけで1000億円の売り上げを誇る企業へと成長していくのである。
4. 成瀬心美と炎上マーケティング

2月のスカパーアダルト大賞2012で最優秀女優賞を獲得したティーパワーズ・成瀬心美は9月に企画女優からKMP(宇宙企画)専属に異例の昇格を果たし10月にはTBSラジオで冠番組を持つに至った。成瀬はSNSでの炎上を繰り返す手法で知名度を高めたのである。
ここではなぜ成瀬が躍進したのかについて、ツイッターを軸に経緯を振り返ってみたい。
成瀬は2011年7月に「家族バレ」をカミングアウト。同年10月にはAV女優であることの覚悟について語った。こうしたある種の「感動キャラ」とツイッターブームの波にのり、2012年1月の段階で3万以上のフォロワー数を獲得していたのである。
しかし、この感動キャラをぶち壊したのは2012年3月14日のツイートである。
地震で皆が不安がってる時にこういうの本当何なの?
って思うわ。
だからブロックします。
言葉には気を付けましょう。
RT @kurenaichan7: @coco3n 胸ゆれへんかったー?(>_<)— 成瀬心美 (@coco3n) March 14, 2012
地震に「胸揺れへんかったー?」とセクハラしたアカウントに対し成瀬が「言葉には気をつけましょう」と不快感を示し、ブロックで対応したのである。今思えばたわいのないことだが、当時大きな話題となった。意外にもこれが成瀬の初の炎上だったのである。その結果、成瀬のフォロワーは急増し、3月16日の段階で40000フォロワーの大台に到達、数日後成瀬は紅音ほたるを抜いてAV女優3位のフォロワー数となったのであった。
なぜ細かい数値や日付にこだわっているかというと、当時私は毎週AV女優のツイッターフォロワー数を分析してランキングにする企画をやっていたからである。成瀬の爆発的なフォロワー数上昇は圧巻であった。
成瀬は「炎上マーケティング」の天才であった。そして所属事務所ティーパワーズも黙認していたのではないか。当時の成瀬の「問題発言」が与えた衝撃はすごかったのだ。成瀬の問題発言(の一部)について見ていただきたい。
こういうのいらねーんだよなー。
RT @donarudodasuki: @coco3n 今ここみんの動画でヌイてしまった笑— 成瀬心美 (@coco3n) February 7, 2012
黙れ、クソハゲ!
成瀬心美 ツイッター
ごるあ!!!!てめぇこの!!!!!!!!!!!
“@Ya_mai_kojien: @coco3n デブ”— 成瀬心美 (@coco3n) December 30, 2012
晒されるの怖くてわざわざ新しく作った捨て垢でのアンチツイートほど
笑ってしまうものは無いぜ。
わろ(´°д°`)— 成瀬心美 (@coco3n) August 31, 2012
@ChocoYamataku 職業差別してるみてーなちっせー人間に言われたくねーわ— 成瀬心美 (@coco3n) August 30, 2012
変な奴はブロック(^o^(⊃*⊂)
ブロックブロック(^o^(⊃*⊂)(^o^(⊃*⊂)— 成瀬心美 (@coco3n) August 3, 2012
うっせうっせ。— 成瀬心美 (@coco3n) December 5, 2012
何でAV女優全員がエロい事つぶやかなきゃいけないの。
アイドルのつぶやきは可愛くなきゃいけないの?
ミュージシャンは音楽の事ばっかつぶやかなきゃいけないの?
ちょっとちがくない?
ムラムラすんならAV見てくださいね^^— 成瀬心美 (@coco3n) April 25, 2012
人前でSEXして恥ずかしくないのか
信じられない
股簡単に開くビッチ
そんな風に言うけどさ
なんだかんだ
居なきゃ困る人居るでしょ?
何で射精するんですか!!!←
俺は違う!!!!
AV何てクソだ!!!!
って思ってるそこのあなた。
ほら、このブログ見てるじゃない!←nyny
ね( ´,_ゝ`)
http://blog.livedoor.jp/naruse_kokomi/archives/1946597.html
今見てもなかなかの破壊力だが、ツイッターもまだまだ黎明期で免疫のない我々には刺激が強かったのである。
こうした一連の「炎上マーケティング」の結果、2012年12月末の成瀬のツイッターフォロワー数は9万を超え、蒼井そらに次いでAV女優2位の立ち位置を強固なものにした。
これをもとに、成瀬はキカタンから異例のKMP専属に「昇格」したのである。しかし、この人気は一般層〜ツイッター民の知名度に過ぎず、逆に炎上マーケティングによってAVユーザーの中ではアンチが増加してしまった。
成瀬は体調不良を理由に2013年3月より休業し、AV女優に復帰することなく一般タレントへの道を模索して今に至る。
5. 病んでいくAV女優たち

ブログ、ツイッターの普及によってAV女優の発言はより広く伝わる様になっていく。悩み多きAV女優たちの苦しみも可視化されていった。
篠原杏は5/28ごろ、「AV引退したい。現場にいくのが怖い。安全に仕事できる環境じゃない。許容範囲超えてる」と発言するなど、AV村の非道な撮影被害を匂わせるツイートが話題にもなった。篠原は11月に結婚したとして引退。AVの闇は深い。

90年代に活躍したAV女優・冴島奈緒が9月29日に癌で44歳の若さで死去するなど、悲報も飛び込んできた。

10月には元マックスエー専属AV女優・水沢杏香が「ごめんなさい もうよくわからなくなって 沢山お薬呑んで救急車で運ばれ 入院してました 本当にごめんなさい」と報告するなど、ついには自殺報告まで赤裸々に語られるようになった。なお、水沢は小泉ミツカと改名後、2013年にも大量の薬をツイートして自殺未遂を図っている。

10月にはAV女優・苺みるく(2000年12月KUKIデビュー)が中野の自宅で自殺。うつ病で苦しんでいたと言われている。苺の死に世間は震撼したのである。
AV女優はAV被害とスティグマに苛まれ心を蝕まれていく。AV人権倫理機構もAV新法もない2012年において、いかに心細いだろうか。その果てに命を散らして、AV出演業は因果という他ない。
6. AV女優ニコ生とAV女優ツイキャスの発展

AV女優ニコ生の普及は著しかった。とりわけ、ムーディーズ、AV事務所・マークスグループのニコ生は大きな人気を集めていく。意外なことに、ティーパワーズはムーディーズのニコ生にモデル派遣はするものの、事務所としてはニコ生進出はしなかった。虎の穴やレッドドラゴンなどのリアル店舗を重視する事務所の集中と選択だったのかもしれない。
DMM『みんなのおもちゃ』というニコ生番組では、琥珀うた、大槻ひびき、橘ひなた、マークス被害女性FがAV女優ユニット「チームGEHIN」として出演し、エロを全面に押し出していき、多くの視聴者を獲得していた。
今思うと、こうしたニコ生というAVよりもはるかに視聴者が多いところでエロ行為を行うことがFにとって不本意だったのかもしれないと思われる。無理をさせ過ぎたのだ。

12月にはAV女優ツイキャスブームが起きた。人気キカタン6人(大槻ひびき、さとう遥希、波多野結衣、初美沙希、有村千佳、橘ひなた)がブームを牽引していく。この背景には、ニコ生での経験と共に、スマホから配信可能なツイキャスのUIの良さが大きい。
AV女優が自宅からプライベートをさらけ出して配信する、ということは当時は衝撃的だったのだ。
Youtube LiveやTikTokが普及しても、今もなおツイキャスを続けるAV女優は多いが、その理由はAV女優のプライベート配信がツイキャス発祥だったからである。
7. 終わりに
2012年はツイッター・ブログの炎上を通じて躍進した成瀬心美の短い栄光で彩られている。ニコ生ツイキャスなどの発展により、AV女優はより発信力を高めていった。その中で、AV出演業の因果に苦しむ女優たちも徐々にではあるが可視化されていった。しかし当時は労働環境改善は遠い話であった。次回は2013年のAV業界について見ていきたい。
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