
2022年は、AV出演被害防止・救済法(AV新法)というAV業界にとってあまりにも衝撃的な法律が成立・施行された年として永遠に記憶されることだろう。この法律は、AV制作の契約・撮影・公開のフェーズにおいてさまざまな制約を課すものであるがFANZA=WILLからの反発は特段なかったのだ。
一方でAV新法は「性交契約」を合法化することにつながりかねない、という根源的な懸念が呈され、AV被害を防ぎたいとするフェミニストの中でもAV新法に賛成/反対の真っ二つに意見が割れ、激しい議論が戦わされたのである。
それでも法律成立が急がれたのは、成年年齢引き下げに伴う18歳19歳AV被害を直ちに防止せねばならないという緊急性があったからだ。激動の2022年について振り返る。
AV事務所・プライムエージェンシー(株式会社GA)小山要・小山浩、職業安定法違反で逮捕
プライムエージェンシー(株式会社GA、SPA・第二プロダクション協会会員)は蒼井そらを輩出したことで知られる2001年創業のAVプロダクションである。
2022年1月21日、警視庁は「プライムエージェンシー」運営会社、GA社長・小山要および取締役・小山浩ほか3名を職業安定法違反で逮捕したと発表した。20代女性2名をAV女優として制作会社に紹介した「有害業務紹介」の疑いである。

プライムエージェンシーは2022年4月までに屋号をGG(Graffity Girls)に変更して2025年現在も普通に業務を継続している。SPAからは何の処分もされていないようだ。
AV事務所もプロダクション協会も、「有害業務でしょっ引かれるのは必要経費」といった感覚になってはいないか。摘発されたら屋号変更して業務継続、という空気が蔓延しているとしたら問題ではないだろうか。
AV出演は公衆道徳上の有害業務であり、モデルをそのような有害業務に派遣するAVプロダクション業は違法であり、いつでも摘発できる。動かすことのできない現実である。
ワンズファクトリー社長・柴原光、無修正AVで逮捕

AVメーカー「ワンズファクトリー」社長・柴原光が2022年4月に無修正AVで逮捕された。ワンズファクトリーはFANZA系の有名表AVメーカーであり、かつては「マルクス兄弟」レーベルも運営していた。それなりに有名なレーベルを率いていた柴原が無修正AVに手を染め逮捕されたのは衝撃と言える。表AVと裏AVは連続した世界であることが改めて示された。

成人年齢引き下げに伴う「高校生AV解禁」の懸念

1. AV人権倫理機構による18歳19歳AVの自主規制通達
AV出演被害防止・救済法の成立の大きな契機となったのは「高校生AV解禁」の懸念である。
民法の改正によって2022年4月1日以降成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることが決定していた。これにより、若いAV出演強要被害女性を確実に救済可能な唯一の手段である「未成年者取消権」が使えなくなり、18歳、19歳の女性が被害に遭う危険が高まることが懸念されたのだ。
その被害を端的に示すのが「高校生AV解禁」である。ぱっぷす金尻カズナさん、伊藤和子さん、(レイズプロモーションにAV強要された瑠未くるみこと)くるみんアロマさんはこれを阻止すべく3月23日に国会で集会を開き、その危険性と対策の必要性を訴えたのである。
伊藤和子先生と金尻カズナ先生と「高校生AV出演解禁を止めてください」18〜19歳の取り消し権維持存続立法化のお願い🤲に登壇するため国会に行ってきました。
未成年者取消権が使えなくなることから、被害が増える恐れあるとして、速やかな対策の必要性を訴えてきました。無事終わりました #AV強要 pic.twitter.com/ky4ydCcDZf— くるみんあろま@宇宙一の愛路真魂 (@Kurumin_aroma) March 23, 2022
AV人権倫理機構は「民法改正に伴う成年年齢の引き下げについて」という文章を公開し、AVへの出演年齢を20歳以上にすることを「推奨」した。
AV人権倫理機構事務局でございます。
2022年4月1日から成年年齢が18歳に引下げられることに伴い、会員団体へ新たな通達を行いました。
通達内容につきましては、当機構HPにてご確認下さい。https://t.co/x0TQCgOXSI— AV人権倫理機構 (@avkaikaku) March 23, 2022
しかし、呆れたことにその通達では「例外として18歳、19歳のAV出演希望者を受け入れる場合には〜」などと未成年AVを「例外」で認めてしまっており、AV村と世間との温度差が露呈していた。
これに関連して、2016年に逮捕者を出したAV事務所マークス元取締役で元AV広報・AVライターのアケミンは「(自主規制により)18歳や19歳の女性の出演はかなり厳しいはず」と述べている。
あの、ファンタジーを壊したらすみません。
現在「適正」と言われているAVメーカーでは、18歳や19歳の女性の出演はかなり厳しいはず。大手プロダクションも未成年は採用しない流れになっている、というのは付け加えておきます。個人的には同人AVや個人の配信でアングラ化するのを危惧してます。 https://t.co/16RHHwfH3X— アケミン (@AkeMin_desu) March 23, 2022
だが、有名女優でも、たとえば先日バーニング副社長に就任した相沢みなみは19歳で、レジェンド女優・古都ひかるも18歳でAV撮影をしている。また、華希れんのように、わざとではないにしても16歳AVをじゃんじゃん売っていた業界なのだ。
超ド単体ですらいくらでも18歳19歳AVの実例があり、さらには2017年ごろのAV強要問題でさんざん「強要はない!AV業界はクリーン&ホワイト」と嘘を並べてきたAV業界人が「最近は未成年のAV撮影はやってないんです」などと主張しても、「いやあなた散々やってたよね?」とAVユーザーにすら信じてもらえない状況であった。
AV人権倫理機構の通達によると「業界アンケートではここ数年18歳、19歳の女優数はゼロになっている」とのことだが、一体そのアンケートが全ての自称適正AVに関して調査したのか?という網羅性に疑問があり、また、アンケート回答の真実性がどの程度も全く不明だ。
AV業界人の論理は、「最近は〜」「適正AVは〜」と限定戦に持ち込む論法なのだが、実効性のある明文的な18歳19歳AV排除の自主規制の仕組みが提示され、運用されていない以上は、「業界的にはやめよう、っていう空気にはなっています。最近通達出ました。」程度の噂話に過ぎず、そんな話をいくらヒアリングしたところで、大して意味がないのだ。
2. 「年齢に関わらずAV女優は出演契約を取り消せる」というAV業界人の明らかな嘘の説明
プロダクションの代弁者として活動してきた中山美里こと亀井美里は、契約解除に関して、「いつでも女優さんから一方的に契約解除できます」などという発言をしていた。
今の適正AV業界のプロダクションと女優さんの契約書は、契約したとしても、いつでも女優さんから一方的に契約解除できるってことを、こういうニュースではぜひ書いて欲しいな。18歳、19歳にかかわらず、働く女性が非常に優位な契約書になってます!https://t.co/q6MRfhYOqt— 中山美里@siente中の人 (@misatonakayama) March 8, 2022
これを拡大解釈したのか、元AV監督・元AV広報・AVライターの荒井禎雄は「契約は女優がいつでも何歳であっても取り消せるんだから、法制化などはいらない」という凄い主張をした。そんな健全な業界ルールになっていたとは、驚きである。
大事な点をここにも書いておきます。
今現在の業界ルールでは、AV女優は年齢も何も関係なく、いつでも契約を取り消せます。
未成年者の契約取り消しがどうのというロジックを見かけますが、そもそもAV女優という立場なら「いつでも契約を取り消せる」んです。
なので法制化など全く必要ありません— 荒井禎雄(専業主夫を志望するフリーライター) (@oharan) March 24, 2022
しかしながら、中山こと亀井や荒井の発言はやはり違和感がある。というのは、AV人権倫理機構が定めた自主規制ルールで、「発売5年すぎたら作品を取り下げる」というものがあるからだ。
このルールは裏を返せば、「発売5年以内は基本的には消さない」ということである。(メーカーの自主的取り組みとして、申請があれば5年以内でも消すメーカーはなくはないのだが、あくまで特例として消す、いわば応相談という扱い)
契約がいつでも取り消せるのであれば、どんなタイミングであれVを消さなければいけなくなる。普通に考えて、ビジネスだから、AV人権倫理機構が定めた5年ルールを反故にしてまでわざわざAVメーカーに不利な規定を設け、AV女優が出演契約をいつでも取り消せるようにする合理的理由がメーカーには存在しないのだ。
伊藤和子弁護士は、こうした「年齢に関わらずいつでも契約を取り消せる」という業界人発言はフェイクだとして次のように注意喚起した。
◾️誤情報注意◾️
「現代の業界ルール」とは?
IPPA-人権倫理機構の統一契約書には
「年齢関係なくいつでも契約を取り消せる」という条項はない。
いったん意に反して出演させられ、出演同意をした後に遡って取消をして販売・配信停止することはできません
エビデンスに基づかないフェイクです💢 https://t.co/s6KMHswNBb— Kazuko Ito 伊藤和子 「ビジネスと人権ー人を大切にしない社会を変える」(岩波新書) (@KazukoIto_Law) March 26, 2022
この指摘に対し、中山こと亀井は「プロダクションとの所属契約は取り消せる」といっただけだとして(これがどういう仕組みで契約を取り消せるのかも疑問なのだが)、「メーカーとの契約」は全然取り消せないことを認めた。契約後、最も肝心のAV出演拒否や出演してしまってからのV差し止めはできない。自主規制として、発売5年経過すれば作品をFANZAから消す、(5年以内は応相談で、メーカーによっては消す場合もある)というだけの話である。(なお、のちに露呈するが、大島薫のVを消さないメーカーがあったり、大塚咲のVをMGSが消さなかったりと、自分で約束した自主規制ですら実は守られていなかった。)
これは伊藤さんの書き方がふわっとしてます。メーカーと女優が結ぶ出演同意書のことを言っているのであれば、確かに契約したら、出演した作品を販売前に止めるのは難しい。でも、出演同意書を結ぶのは撮影当日であることが多く、その前に、台本の確認があり、プロダクションとの所属契約があり→ https://t.co/PfwraSrjJe— 中山美里@siente中の人 (@misatonakayama) March 26, 2022
中山こと亀井が主張を「撤回」した以上、彼女の発言に依拠して「今現在の業界ルールでは、AV女優は年齢も何も関係なく、いつでも契約を取り消せます」とした荒井の発言は根拠がなくなる。荒井にはまずは根拠のない発言をしました、と訂正した上で、別途取材の上再度ポストするなどの措置をとって欲しかった。
だが、荒井はそれを怠り、急遽プロダクション協会の理事に電話して「商品の取り下げ申請」に関する条項はやっぱりあるんだと主張、情報は部外秘だから提示できないと主張して議論を終わろうとしたのである。
しかし、商品の取り下げ申請の話があるとして、(どうせ5年ルールの話じゃないのか?という疑念もありつつ)「いつでも何歳でもプロダクション及びメーカーとの契約を解除できる」という荒井の当初の主張とは全く別の話だ。
つまり荒井の話は「ごまかし」なのだ。これには伊藤先生も呆れ顔であった。
契約の話と取り下げの話、、とな。
アバウトすぎる。
誰でもいつでも無条件で申請すれば取り下げるというルールが確立した、というのはフェイクだと言っているんですよ。
だってそういう現実はないわけですからね。明らかに。
(だから困ってしまった被害者が私に相談に来るわけです😭) https://t.co/uPQaBQbURm— Kazuko Ito 伊藤和子 「ビジネスと人権ー人を大切にしない社会を変える」(岩波新書) (@KazukoIto_Law) March 26, 2022
荒井さんには伊藤先生への対抗心で法律とかAV業界自主規制ルールの正確性に欠ける議論をして、多くの人々の言論を無駄にするのはやめていただきたいと思っていて、それよりももっと価値があり、荒井さんにしかできないこと、たとえば松本和彦とか松嶋クロスの評伝を書くことに集中してほしいなと思っているのである。
このように、伊藤先生の正当な主張の前にAV業界人は勝手に自滅して退散した。そしてそもそもFANZA=AV人権倫理機構は法規制に反対していない。そこでAV業界の魔手から18歳・19歳の女性を法の力で保護するにはどういう規定を法律に盛り込めば良いのか、という論点に移っていくのである。
3. AV新法制定への要求—自主規制を超えて
3月31日に政府は「『アダルトビデオ』出演強要問題緊急対策パッケージ」を公表する。
アダルトビデオ(AV)出演強要問題は、被害者の心身に深い傷を残しかねない重大な人権侵害である。 令和4年4月 1 日から施行される成年年齢引下げに伴って、本人の意に反してAV出演 を強要されることが増えるような事態は、何としても回避しなければならない。 このため、改めて、AV出演強要問題に対して政府一体となって強力に取り組んでいく ため、緊急対策パッケージをまとめるものである。
「『アダルトビデオ』出演強要問題緊急対策パッケージ」より引用
AV業界はもはやソーシャルエネミーの様相を呈していた。しかし、この時点ではまだ新法の話は出ておらず、周知啓蒙、既存法律運用、AV人権倫理機構の自主規制で何とかする、という内容だ。

自民党・上川陽子会長は「今の法律では対応できず、緊急性が高い。立法府の立場からどう対応できるのか、スピード感を持って取り組みたい」と発言し、法整備を迅速に進めると宣言。
4月13日には自民・公明与党で「AV出演被害防止に関するPT」が初会合を開き、AV出演被害について「重大な人権被害である」と強調し、下記の内容などを盛り込んで議員立法することを確認した。
- 保護する対象者は年齢・性別を問わない
- 問題のある出演契約はいつでも取り消せる
- いかなる出演契約でも撮影前や撮影後の相当期間は無条件に契約を解除できる
1.にある通り、この段階で、18歳・19歳のみならず、全年齢に拡大した措置を取るという方針が明らかになってきた。
5月13日には自民党など与野党6党のAV出演被害問題についての実務者会合にて被害防止に向けた新法の素案がまとまった。
<素案>
撮影内容や場所などを書面で明示した上での契約を義務付ける。
事前に承諾していても、撮影から映像の公表後1年間は無条件で契約を解除できる。(経過措置として施行後2年間は、契約を無条件に解除できる期間を映像公表後、2年間とする。)
契約から撮影まで1カ月、撮影から映像公表まで4カ月の期間、それぞれ置く。
この時点で、全会一致で新法が可決されることは確定的となっていた。そして、やはりAV人権倫理機構をはじめとするAV業界団体からも特段の反対はなかったのである。
しかしながら、新法をAV業者に都合の良い「性交契約の合法化」だとして反対し、AVそのものを禁止しようとするセックスワーク否定論者のラディカルフェミニストたちが声をあげだしたことで議論は新たなフェーズに入っていったのだ。
AV新法による「性交契約の合法化」に反対し「AV禁止」を主張する人々

1. AV被害についての基本的な考え方について
AV被害について、ぱっぷすの考え方を用いて整理してみたい。ぱっぷすによればAV被害は以下の5つに分類できるという(https://www.paps.jp/pornharm)。リンク先のぱっぷすの例を、私の方で咀嚼しながら改変してみたのが下の記述である。
制作被害
AV撮影現場で、台本にない意に沿わないハメどりなどの本番や口淫などの性行為を強要されたり、殴る蹴る・水責め・可燃性の泡を吹き付けて着火して燃やされて火傷を負わされたりといった、非道な暴行を受け、撮影される被害
流通被害
AVがFANZAで売られる、セルショップで売られる、無料サイトで公開される、ディープフェイクやモザイク破壊動画、無修正流出動画がばら撒かれる、などの被害
消費被害
合意なしにAVを見せられたり、パートナーからAVを真似た痛いだけ、不快なだけの性行為を強要されたり、AVに影響された性犯罪者に痴漢・レイプといった性暴力を受けるといった被害
社会的被害
交通機関やインターネットなどの公の場でAV的なものが目に入り不快な思いをしたり、AVの蔓延によって女性の尊厳を傷つけたり、女性を性的な劣情を発散させるための道具・モノとする見方を助長したりして、女性の社会的地位を貶める被害
存在被害
AVが観賞目的で他人に所持されつづけられたり、脅迫やいやがらせに利用されるなどの被害。
このように、さまざまな側面においてAV被害が発生することがわかる。
ぱっぷすの分類には適応しづらいが、AVに出演した事実を指摘する「アウティング」も、カタギ(昼職)で第二の人生を歩もうとしている人にとっては極めて大きな脅威となりうる。
こうしたことを考慮していくと、結局のところAVに関わる撮影・販売・アップロード・広告・所持・閲覧・アウティングの全てを法的に禁止しない限り、AV問題は解決しないのではないか?というのが、AV批判者の主張点となっていく。
2. 「性交契約の合法化」の懸念
そしてその主張の根幹をなすのが「性行為に関わる契約」の禁止である。しかしながらAV新法においては、AV制作に関する規定を設けるという趣旨のために、AV撮影に関しての契約の規定が盛り込まれていた。これが事実上の「性行為契約の合法化」だという批判が寄せられたのだ。また、職業安定法上の有害業務とされているAV出演を法律で合法化するのは法的矛盾である。
この問題について声を上げた人たちがいる。2022年5月22日、新宿にて「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」が実施された。参加者は、ぱっぷす北原みのりやColabo仁藤夢乃、郡司真子らである。彼女らの主張は、AV新法はAV業者に都合の良い法律であって、売春防止法に反する「性交」を金銭取引の対象にすることを法的に認めるものであり、AVが国家公認されるものだから受け入れられない。とするものだ。
【呼びかけ文】①AV に関する新法が、今国会で通されようとしています。
自民党による骨子案の内容は、業者にとって大変都合がよく、このままでは売春防止 法にも反する「性交」を金銭取引の対象にすることを法的に認め、国家的に認められた AV が誕生することになります。
#AV新法に反対します— AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション (@StopAVlaw) May 10, 2022
さらに仁藤は「AV業界や購買者目線で作られた「AV新法」には反対です!!」というタイトルの記事を5/24にアップした。
これまでAV撮影で建前上「演技」として行われてきた性交シーンが、出演者との契約合意があれば「本番行為」であっても問題なしとされ、AV制作・販売業者(以下、AV業者)に大変都合のいい法案となってしまった。
このままでは「性交のビジネス化」を国が法に定め、AVを公(おおやけ)に認めることになる。売春防止法にも反しており、大変な問題を抱えた立法と言えるだろう。
その上で、仁藤は下記のような提言を行ったのである。
そこで、私たちは要望書で以下のことを求めた。
(1)性交および暴行陵虐行為を目的とする契約は禁止すべきであり、その前提で定義を変更すること。
(2)法律名の「性行為映像作品」を「性行為画像記録」とすること。
(3)「性行為画像記録」の定義を、「人が性交若しくは性交類似行為を演じる姿態又は性器等を触り、若しくは触らせる行為、および暴行凌辱・残虐行為等を演じる姿態が撮影された映像を含む記録であって、主に女性を性的に支配し、性的対象物として暴力的に扱うものをいう」とすること。
(4)性器を露出した画像記録は許されないので、削除すること。
こうした批判は、AV新法には直接反映はされなかったものの、2年以内の見直しを行う旨、明文化がなされた。
AV出演被害防止・救済法(AV新法)の成立

AV新法は、5月27日衆議院本会議において全会一致で可決され、6月15日に参議院本会議でおいて可決、成立した。そして6月22日公布、6月23日施行されたのである。
ではその内容について、確認してみよう。
1. AV新法の概要
概要:PDF
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/avjk/pdf/seiritsu_gaiyou.pdf
性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律
(AV出演被害防止・救済法、AV新法)
「性行為映像制作物」とは、性行為(性交若しくは性交類似行為又は他人が人の露出された性器等(性器又は肛門をいう。)を触る行為若しくは人が自己若しくは他人の露出され た性器等を触る行為)に係る人の姿態を撮影した映像並びにこれに関連する映像及び音声によって構成され、社会通念上一体の内容を有するものとして制作された電磁的記録又はこれに係る記録媒体であって、その全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するもの
<契約について>
・AV出演契約は作品ごとに締結
・契約書の交付と内容説明の義務付け
・説明書面の交付と内容説明義務
<撮影・公表について>
・契約締結から1か月間は撮影禁止
・全ての撮影終了から4か月間は公表禁止
・出演者の安全確保と嫌な行為の拒否権
・公表前の撮影映像確認権
<出演者の権利>
・公表から1年間(経過措置期間は2年間)の無条件契約解除権
・契約がない場合や取消・解除後の販売・配信停止請求権
< 無効となる契約条項>
・ 出演者への損害賠償請求条項
・制作公表者の損害賠償責任を制限する条項
・出演者の権利を制限し義務を加重する条項
<その他の規定>
・プロバイダ責任制限法の特例(削除同意照会期間の短縮)
・相談体制の整備と教育・啓発活動の充実
<罰則>
・契約書不交付や虚偽記載: 6か月以下の懲役または100万円以下の罰金
・誤認させる行為や威迫: 3年以下の懲役または300万円以下の罰金
AI(Perplexity)に書かせた要約を一部筆者が編集したもの
契約時におけるAV撮影の重要事項説明と撮影の日時・相手の明文化により、詳細を聞かされずに当日現場で何やるか聞いて撮影するといった雑なスケジュールは明確に禁止された。
また、熟慮期間が1+4=5ヶ月、予約1ヶ月を含めると契約から少なくとも半年は販売できないため、自転車操業していたメーカーは資金繰りが厳しくなることも予想される。
一方で、出演者への損害賠償請求は無効となることから、AV強要の真因となる違約金の問題は抑制されると期待された。
ではこの新法に対する反応はどういったものがあるだろうか。
2. AV新法に対するAV業界団体の反応
このAV新法に対し、AV人権倫理機構は6月28日に基本姿勢を表明したが、特段の反対・抗議はなく、従来の「適正AV」の自主規制と方向性は合致するとしている。AV女優などの当事者の意見を聞いてもらえる機会がなかったことについては機構として「反省する」とした。
なお、AV人権倫理機構が解散した後の2025年にAV業界団体・CCBUが改正要請したのは以下の点だ。
- 出演契約書等の交付を受けた日から撮影まで 1 か月、全ての撮影が終了した日から公表まで 4 か月という「熟慮期間」が長すぎるので短くしてほしい。
- 契約時の義務として、制作公表者への「法律内容の説明」を必要としているが、ベテランの出演者には説明を省略したい。
- 作品毎契約義務があるが、総集編を作るのに手間なので、総集編に使用を許す、といった文言を入れることで新たな契約を省略したい。
- 出演契約後、撮影まで 1 か月の熟慮期間があるため、体調不良等で急な「代役」を立てることができない結果、バラシのスタジオ代・人件費が嵩むのでなんとかしてほしい。

これらの要請は撮影現場の声を受けてのものだが、AV被害防止の趣旨とは逆行するものと言わざるを得ない。改正の見込みはあまりないのではないか。
ここからは筆者の推測なのだが、AV新法は、WILLの制作慣行的に許容範囲の規定で、かつSOD・プレステージ等にはそれなりの打撃を与えつつ、「同人AV」に大きな打撃を与えられるのでWILL・FANZA・亀山会長的にはむしろ歓迎であったのではないか。
3. AV新法に対する反AV急進派の反応
反AV急進派の「AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション」は、AV新法成立に対する声明として、金銭を対価に性行為を行う契約を合法化する道を切り開きかねないと非難し、「撮影における性行為」禁止すべきであって、「根本的な被害防止」のためにはAVの撮影・商品化・消費全てがAV被害であることを認識すべきと主張した。
①AV新法の成立に対する声明(2022年6月24日)を公開します。
2022年6月15日、「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律」(以下、「AV新法」)が pic.twitter.com/6rAW40us1I— AV業界に有利なAV新法に反対する緊急アクション (@StopAVlaw) June 24, 2022
AV新法には「2年以内の見直し」が明記されているため、AV禁止に向けた一層厳格なAV規制の方向でAV新法を改正すべきだと思っている。
4. AV新法に対する伊藤和子先生の反応
「高校生AV解禁」問題をぶち上げた伊藤和子先生はAV新法成立を歓迎している。思えば2015年のニューゲート・SOD違約金2460万円訴訟から長い道のりであった。
伊藤和子弁護士は「新法は実際に被害救済に使える非常に強力な内容。ただ、知らなければ使えない。政府もマスコミも多くの人に届くように告知してほしい」と話した。
朝日新聞 https://www.asahi.com/articles/ASQ6H6586Q6FOXIE013.html
AV被害防止救済法は、瓢箪から駒というか
私たちが未成年取消存続の活動をしていたら、与党から出てきたお話です。もちろん私たちも長年そういう救済法を提案してましたが、2022年4月に今これをやると決定したのは与党の意思。この動きを後で知って、激しく反対運動していたのが仁藤さんたちです https://t.co/gRKaszTX88— Kazuko Ito 伊藤和子 「ビジネスと人権ー人を大切にしない社会を変える」(岩波新書) (@KazukoIto_Law) December 19, 2022
伊藤先生は瓢箪から駒、という表現で新法成立を振り返っている。AV新法は与党・自民党から出てきたものであり、ほぼ全会一致で可決されたという事実をAV業界は真摯に受け止めなければならない。立憲・塩村議員を叩けばいいという話ではないのだ。
5. AV新法による制作・撮影現場の一時的混乱
新法の施行により、一時的には混乱が生じたようだ。特に多数のVに出演している大槻ひびきは契約書が多くなって大変だとツイートしていた。
AV新法の対応に追われとてつもなく大変な日々でした。
メーカーさんや事務所さんが対応に追われ皆さん疲労で顔が青ざめていました
私も仕事の合間に沢山の契約書に判子を押したりバタバタで🥲
可決して今後本当に日本のAVが消えてしまいそうで怖いです
私達から大切なものを奪わないで下さい— 大槻ひびき♡ (@hibiki0221) June 14, 2022
中村淳彦の本でも取り上げられていたが、金苗希実という企画女優によると過渡期でバラシも発生したようである。
7月決まってたAVの撮影が全部中止…
AV新法で女優が守られるどころか仕事が無くなって現役の女優たちが苦しむ構図って誰得なん。。— 金苗希実💜RPしてね (@_non_nozomin_) June 19, 2022
清水によれば、予備の男優の需要が生じたとのことである。
AV新法で
困ってる人9割
喜んでる人1割
この喜んでる1割は”今まで仕事がなかった3流男優”たち。
新法対策でメイン男優が体調崩した時用に「サブ男優」というカテゴリーが誕生した。
メインが倒れない限り、サブは自宅待機してるだけで2-3万円の満金ギャラを手にする。
メーカーさんが大変過ぎる。 pic.twitter.com/wnZSeZRt0i— AV男爵しみけん (@avshimiken) October 30, 2022
長期専属については、法対応さえできれば計画的に月1で撮影すれば良いので特段の影響はないと思われる。2025年現在ではバコバスなどの大人数ものも復活しており、AV新法への適応は進んだようである。
AV新法による初の逮捕者
12月6日、AV新法による初の逮捕が発表された。逮捕されたのは映像制作会社「グレイスエンターテイメント」角谷(すみや)貴史容疑者である。無修正AV7本に出演した3人の女性に対して、契約書類を渡さなかった疑いという。

2023年9月14日、東京地裁は角谷貴史被告に懲役2年執行猶予3年、罰金150万円、追徴金約876万円の判決を言い渡した。

AV新法は、非道な無修正同人AV業者を摘発するのに有効な法であることが示されたのである。
AV人権倫理機構による反AV急進派へのクレーム
12月21日、AVプロダクションの代弁者・siente中山美里こと亀井美里が反AV急進派・角田由紀子弁護士の下記の発言を問題視し、抗議声明を出した。
アダルトビデオっていうのはですね、えー、まさに女性を性的に虐待してですね、そのことを娯楽にしてる、類のものなんですね。
令和 4 年 11 月 29 日に行われた「Colaboとその代表仁藤夢乃に対する深刻な妨害に関する提訴記者会見」の中で弁護団の角田由紀子氏による看過できない発言がありましたので当協会HP上にて声明を発表いたしました。
発言の撤回および、AVの出演者、製作者、視聴者に対する謝罪を求める通知をColaboに→ pic.twitter.com/94vL6FeMxV— siente (@sienteJP) December 21, 2022
中山こと亀井によると、角田の発言は、自称適正AV業界で「AV出演を自己決定した女優」とメーカーとユーザーを傷つけるものだからいけないといっているのである。
ちなみに、角田氏はAVでの女性の性的虐待は、メーカーだけでなくユーザーも共犯だとする立場だろう。
AV新法成立にあたり、呆然と立ち尽くしていただけの用無しの感もあるAV人権倫理機構は存在意義をアピールしようと焦ったのか、便乗する形で12月26日にかなり長いタイトルの抗議声明を発表した。
2022年11月29日「Colaboとその代表仁藤夢乃に対する深刻な妨害に関する提訴記者会見」における角田由紀子弁護士のアダルトビデオ業界関係者に対する職業差別、出演者にスティグマを負わせる発言に対する抗議声明
この生命の中で、角田氏の発言の問題点についてAV人権倫理機構は、以下のように指摘する。
日々誠実に、各種法令および適正AVの自主規制ルールを遵守してAV制作業務に携わっている適正AV事業者に対してまで、「女性を性的に虐待」していると決めつけている点で、不当にこれを貶めるものです。これは、適正AV事業者に対する偏見と職業差別であると言わざるを得ない内容です。また、同時に、その発言は、適正AVに自らの意思で出演しているAV女優さんについてまで、エンターテインメントのプロフェッショナルとしての矜持を否定し、その自主性、主体性を無視して、性的虐待を受けているものと決めつけている点で、事実に反する劣位化を社会に印象付け、結果的にスティグマを負わせるものとなっています。
しかしながら、「自己決定」と称して女性の人権倫理を踏みにじり、性的虐待したVを撮影販売し、「AV出演の過去」という消えない「スティグマ」を負わせて使い捨てにしてきたのがAV業界ではないか。それに自称適正を主張しているが、審査機関は変わっていないわけだから、Vの内容自体は全然変わっていないではないか。
中山こと亀井が反論するのは止められないにせよ、第三者委員会であるはずのAV人権倫理機構は、さまざまな批判を真摯に受け止め、業界の自浄を推進すべきではないか。正直、逆ギレとしか思えなかったのである。
もちろん、これらの抗議声明に対する角田氏の返答はなかった。
「自己決定権」を持ち出して、批判を全て「差別と偏見」だとするAV村(そして、セックスワーク派の人たち)の論法にどうやって対抗していくのか。貝柱茜さんも主張しているように、「自己決定権」こそがAV禁止における重要な論点となっていくのである。
終わりに
AV新法の成立に際し、AV村はほとんどなすがままであったが、その背景にはそれなりに負荷のかかる法対応の発生により、体力のあるFANZA=WILLのみが生き残り、SOD・プレステージ・いわゆる同人AVは一挙に壊滅するのではないかというビジネス的思惑があったことは想像に難くない。
理論的には、このAV新法の論争を通じて、セックスワーク派と急進的反AV派の意見の違いは一層明確となっていったと言えよう。そして最終的に、AV禁止論に対する最後の盾としてセックスワーク派は「自己決定権」を行使した女優を持ち出し、論争は最終盤面へとなだれ込んでいくのである。
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