
VIP専属・小野沙樹として2004年にデビューしたのち、ドグマ専属・MiCO時代を経て、7年目でブレイクした大塚咲。しかしながら大塚には誰にも語ることのできなかった過去があって… 本著『よわむし』(2017)で初めて明らかになった大塚の性被害、そしてAV被害についてみていきたい。
なぜ大塚咲『よわむし』を手に取ったのか

私が初めてAV女優・大塚咲を知ったのは大塚がまだドグマ専属・MiCOと称していた頃である。圧倒的な美貌でありながらどこか憂いげな表情に惹きつけられたことを覚えている。
今回『よわむし』を手に取ったのは、ぱっぷす編『ポルノ被害の声を聞く デジタル性暴力と#MeToo』(2022)を読んで、表紙の絵が大塚のものであると知ったからである。なぜ大塚はAV規制の急進的な存在であるぱっぷすと共闘するに至ったのだろうか?
大塚咲の性被害
『よわむし』では冒頭、大塚が15歳の時に受けた性暴力を衝撃的な筆致で告白していく。優等生であった大塚はトラウマに苦しみ、性的奔放に走ったり、自傷行為を行ったりしながら、ついには高校を退学することになるのであった。
このあたりの性被害の事情について、大塚がインタビューされている黒羽幸宏『裸心』(2011)では大塚は一切語っていない。大塚はインタビューで求められている「性的に奔放な少女像」を語っていく。業界ライターのインタビューで大塚が性被害を語ることは到底できなかったのである。
初期大塚咲の苦難〜AV被害について
大塚は高校卒業資格を取得したのち18歳で自らスカウトに声をかけ2004年にAV業界入りする。しかしながら、VIP専属にはなったものの、1本出演してダクション(トータルワークス?)から約束したギャラがもらえなかったという。このため、契約の6本出演を拒んだところ、ダクションからペナルティーとして金銭を要求されたという。これは今の考え方で言えばAV強要である。
こうした経緯があって、「飛んだ女優」認定された大塚は「特殊なSMメーカー」とされていたドグマでしか専属になれなかったという。ドグマで大塚はMiCOとして半年Vに出演する。ドグマでの撮影は異常を極めており、頬を叩かれ顔も腫れ、あざだらけになるようなレイプシーンが続き、15歳の頃の性被害をフラッシュバックするような撮影だったという。ドグマのエグいVに出演した女優を他のメーカーは撮影したがらない。その意味でMiCOはキャリア的に苦境に陥ったのである。
企画単体となった大塚はキャットファイトで骨折したことを武勇伝として語る女優たちを目撃する。仕事で骨折などとは到底許されない話であり、AV業界の異常さを思い知らされたという。さらには沖縄のレズの撮影では、共演者がAVであることを知らされずに騙されて来たことが発覚し、対策に苦慮した挙句に自らも「加害者」になってしまうのではないか?と悩むなど、AV業界の闇の部分を痛感したのだった。
そんな中、事務所の後輩(美咲沙耶?2007年7月か)が自殺する。事務所への不信感を募らせた大塚は21歳にして最初のダクションを辞めるのであった。
マークス移籍〜「大塚咲」を名乗ってから
別の事務所(マークス?)に所属した大塚は、「大塚咲」という名前を名乗るようになる。しかしながら、企画女優として軽く扱われた大塚は、関係者から撮影と称するなどの手口で4,5ヶ月に10回もレイプ被害にあったという。
こうした被害を事務所に相談することは難しかったという。何度も報告していると嘘と思われると考えたようだ。
さらに、10連続日で撮影を入れられ、5日目で性器が切れて痛くて撮影ができなくなったことがあったというが、その際、ダクションからペナルティとして40万円を請求されたという。
このように、女優を雑に扱い、女優から搾取することしか考えない制作・ダクション両方に対して大塚は不信感を募らせたのであった。
かつて、マークス取締役でAVライターのアケミンが「しっかりとした事務所もある」とマークス礼賛をしていたが、全然しっかりしていないではないか。
この事件をきっかけにして大塚は「飛ぶ」ことを決断する。行き先を転々としながら、逃避行の間に知り合った男から性暴力を受けるなどして進退極まった大塚に、仲良くしていたマネージャーから連絡が入り、そのマネージャー(浩一氏?)の元に身を寄せることにしたという。
マネージャーは大塚を匿っていることを隠していたが、やがてダクションに露呈し、けじめをつけるために結婚するよう要求されたという。本来事務所の人間が女優に手を出すのはご法度とされているが、結婚して本気であることを示せば許されるという。この時期に妊娠も発覚し、23歳で結婚、のち女の子を出産して産後3ヶ月で撮影に復帰した。
大塚は復帰後2ヶ月して撮影した作品が異例の大ヒットをし、女優歴7年目にして大ブレイクを果たす。
ちなみに、大塚は旦那とSOD『ウチの嫁さんはAV女優です。』に出演したが、そこでは女児がいることは隠蔽されている。大塚の遍歴や娘がいることなどが描かれていないと不満を抱いたのか、雨宮まみは批判のブログ記事を上げていた。
その後大塚は過密スケジュールの中多数の撮影をこなし、2012年の引退まで駆け抜けたのであった。
V引退後の大塚咲
大塚は現役時代から事務所のモデルを撮影するなど写真家としての活動をしてきたが、画家としても活躍している。
大塚がここまでの性被害・AV被害の過去を持つ人物であることは表層的なAVインタビューでは語られることはなかった。その意味で、2017年のマークス崩壊によってしがらみなしに大塚が自らの言葉で『よわむし』を上梓できたことはAV被害を考える上で、大きな成果であったと言えよう。
本著では、AV業界を憎みきれない葛藤も吐露されていたが、AV被害は、徐々に年月を重ねる中で認識されていくものなのだ。
その証拠として、大塚は19年以降は動画・画像を無断で商品に用い続けるAV業界との対立姿勢を強め、V削除やアダルトグッズメーカーとの訴訟を進めると共に、AV規制派のパップスやHRNとも連携するなどしているようだ。
大塚咲さんのグッズメーカーとの闘争についてはnoteの方でまとめています↓

大塚は有名女優でありながらAV村との対決に躊躇しない稀有な存在である。ポルノ被害のない社会のため、これからもAV被害・性被害撲滅に向けた発信をしてほしいと願っている。
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